西の大陸の果て。 工業都市として名を知られたシェッジミル市に、まだ幼い少女のレイは住んでいた。 デーモンの貴族であるロディス子爵の奴隷として買われてもう数年。 人間には珍しい銀髪に緑の瞳は魔族かエルフか。 その判別もつかない少女は、孤独に奴隷として暮らしていた。 同じく銀髪に紅玉の瞳を持ち、魔族特有の冠のような角を持つ少年、フェイブスターク。 どこからやって来たのか記憶がない彼は、天空を行き交う雲の回廊を視る力に長けていた。 飛空艇乗りに必要な導き人の職を得たフェイブは、その身に合わない賃金をどうしようかと悩んでいた。 ある時、子爵家の用事で街にでたレイは、同じような出で立ちの少年に心を奪われてしまう。 二人が恋に落ちるまで、そう時間はかからなかった。 レイを奴隷から買い戻すにはまだまだ資金が足りない。 フェイブは次第に、闇の稼業へと手を染めていく。 ある時、大きな仕事が持ち上がった。 胎内に違法な鉱石を入れて運び、別大陸でそれを客先に渡す。 成功すれば大金が手に入る。失敗すれば死だ。 レイは同じ奴隷仲間のユニスとこの話を受けることにした。 まさか、愛するフェイブが彼女たちの乗る船で監視役をしているなんて、露ほどにも知らなかった。 二週間の旅路、その合間に伝説の天空大陸で幾つか仕事をする。 数人の用心棒の中には、この世の全てを憎んでいるような目つきをした少女、エレノアがいた。 そして、天空大陸で何かが乗り込み、ゆっくりと飛空艇の乗員が姿を消していく。 フェイブ、レイ、ユニス、エレノア。 十代の幼い彼らだけが最後に生き残った時――奇跡への扉は開かれた。
文字数 3,199 |  最終更新日 2020.8.31 |  登録日 2020.8.31