北関東の山間で、米をつくり暮らしをたててきた集落。そこに住む祖母が亡くなった。親族として葬儀の手伝いをする皐月は、豪農として大きな屋敷を構える本家で、幼い頃に見かけた「狐の嫁入り」を思い出す。雨が降る田のあぜ道を、篠笛の音とともにゆく狐の面をした彼ら。それとともに苦い記憶が蘇る皐月の前に、一人の男性が現れた。白彦(きよひこ)ーー。きよくん、と呼び、本家に来た時だけ遊びまわった従兄弟であり、幼い頃の友達だ。人目を惹かずにはおれない美しい男性に成長した彼に、皐月は気後れしながらも少しずつ昔のように打ち解けていく。そんな時にふと現れた、狐面で顔を隠した、小さな男の子。謎めいた言葉を残しながら、その子は裏庭の古い土蔵へと誘うーーー。皐月を襲う新たな怪異。山の神様が住まうという集落のシンボルでもあるお山。ひたひたと皐月の日常に忍び寄る、悪意。少しずつ思い出す、記憶の断片。そして、祖母の命への眼差しとひたむきな白彦の想い。皐月は、いやおうなく人間と人間ならざる者、生と死との狭間に立たされていく。その狭間で、彼女はどんな選択をしていくのかーー。北関東の山間の古い旧家を舞台にした、”狐の嫁入り”をめぐる恋愛ファンタジー。
文字数 170,526 |  最終更新日 2018.4.14 |  登録日 2018.3.18