停滞感を振り払いたくて、蓉子は沖縄旅行を決めた。沖縄の日差しと陽気が、靄のようにかかる停滞感を吹き飛ばしてくれると信じたのだ。しかし天候には恵まれなかった。蓉子が沖縄にいる間、空が晴れることはなかった。 残念に思いながらも帰宅することにしたが、蓉子は帰途、不意に妙な胸騒ぎを覚えた。嫌な予感の正体を探りながら、家へと車を走らせると、家の前には数台の警察車両が停まっていた。聞けば、ある事件の犯人が蓉子の旅行中、庭に忍び込み、遺体を埋めたのだという。 蓉子の家の庭には、それとは別にもう一体死体が埋まっている。 愛する人を、蓉子はかつて埋めたのだ。
文字数 28,385 |  最終更新日 2020.2.29 |  登録日 2020.1.31